2010.5/21更新

◆ 前向きな色彩規制の必要性

            「経営労務ディレクター2009・3〜4月号」より
             〜カラーコンサルタント 成田イクコ著 〜

  
 
 漫画家の楳図かずおさんが東京都武蔵野市に建築した「まことちゃんハウス」が周囲の景観を乱すとして近隣住民が外壁の撤去などを求めていた訴訟の判決が、昨年1月末に言い渡された。東京地裁は、この件を「景観の調和を乱すとはいえない」として住民側の請求を棄却した。その理由としては、自宅のある地域に外壁の色彩についての法的規制や住民間の取り決めがないことを指摘し、「外壁の色について法律上保護すべき景観利益はない」としたのである。また、「周囲の目を引くが景観の調和を乱すものとまではいえない」と判断している。

 問題となっている楳図さんの自宅は二階建て、外壁は幅約48センチの赤白ストライプ模様で、一部を緑色に塗装し、屋根には赤色の円筒が建てられている。私は、実物を直に見たわけでないが、写真のみで見る限りにおいては、住宅街にあってシンボリックな印象であると同時にかなりの違和感を感じたものである。

 こうした問題が起きるたび、景観の公共性について語られることになるのだが、社会的には今や景観に公共性があることは周知のことと認められているのである。つまり、個人の所有物であっても建築物は、景観において公共性がある以上、それなりの規制はあってしかるべきとされている。景観の公共性とその規制の関係について、主な判例を例に出すと、アメリカでは、1954年にパーマン判決というものが出された。それはアメリカの連邦最高裁が「社会が健康的であると同時に美しく、清潔であると同時に空間的ゆとりがあり、気をつけてパトロールされていると同時に調和のとれたものであるべきだと決定することは、立法府の権限の範囲である」と断じたのである。このことから「美」というものが社会価値であり、必要な要因であるとされ、これ以降、美観規制が都市計画上の規制方法として確立していったと言われている。

 日本でも、2006年の国立景観裁判の最高裁判決の判決要旨の中に、「良好な景観に近接する地域内に居住する者が有するその景観の恵沢を享受する利益は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。」とあり、住民の景観利益を認める画期的判決と受けとめられたのである。

 景観の公共性の担保の軸についてはどこにもっていくかは、その時代背景や文化、社会の動きと共に試行錯誤してきたであろうが、全般を通して言えることは、今日では景観に公共性があることを前提の上で、いかにして良好な景観を形成していくかを考察していく段階に入っていることである。

 また、2005年に成立した景観法は、我が国で始めての景観についての総合的な法律であり、良好な景観の形成を国政の重要課題として位置づけるとともに、これまでの各自治体の作成した条例では限界のあった強制力を伴う法的規制の枠組みが用意された。つまり、各自治体が景観法に基づく景観計画を策定した場合、その中に色彩の制限も掲げなければならないとされているのである。

 これによって各自治体が、それぞれの地域の望ましい景観の姿の青写真を描きながら景観計画を作成することで、より良い景観も形成できるであろうし、景観トラブルも避けられる可能性があると言えよう。

 今回の楳図邸における景観問題については、いったん建てられた建築物の色について景観を乱すといった判断は法的に認められなかったのである。しかし、この地域に景観計画に基づく色彩規制が始めからなされていたならば起きなかったであろうトラブルである。つまり、今回の件から改めて認識できたことは、良好な景観を形成するには、住民それぞれの景観意識に委ねることは難しいのが現状である以上、景観における色彩の前向きな規制を考える必要があるということである。


 

 

 


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